匠「まさか………偶然とは言え、会ってしまうとはな。」
佳奈「………そうね。偶然って恐ろしいものね。」
私は匠と共に、喫茶店にやって来ていた。…昔からあるこの喫茶店は
いつ見ても、変わらない風景だった。
匠「……こっちの方に、仕事で来ていたんだ。」
佳奈「………そうなの。相変わらず毎日、忙しいのね。あなたは。」
匠「ああ……まあな。だけどそれは佳奈もだろう。お互い様さ。」
匠はそう言うと、コーヒーを啜った。
ブラックを飲むのは、出会った頃から
変わらないものね…。
匠「大和は………元気か?」
匠から大和の名前を聞いた瞬間
私は思わず、眉間に皺が寄った。
佳奈「……それを聞いて、どうするの?あなたには、もう何の関係もないでしょう。あれからあなたには、大和のことで一切迷惑をかけなかったわ。」
…まだ大和が小さかった頃に
些細なことから始まった
私と匠との、言い争い。
主な理由は…よくある事。
互いの価値観が変わったこと。
互いにすれ違いが生じたこと。
互いの生き方が別れてしまったこと。
そしてそれらは一つになり
二文字の言葉に行き着いた。
『離婚』という結末に。
匠「…今更、こんなことを言うのもなんだが……大和は俺の息子でもあるんだぞ。知る権利ぐらいは、有るはずだ……。」
佳奈「都合の良いことを……言わないでよっ!」
私は思わず立ち上がって叫ぶと
机に両手をバシンとついた。